神戸地方裁判所 昭和24年(行)64号 判決
原告 滝口三一
被告 兵庫県農地委員会
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、「訴外姫路市姫路地区農地委員会の定めた同市仁豊野浦田一四九番地宅地三〇坪(別紙図面中朱線で囲んだ部分以下単に本件土地と略称する)の宅地買収計画に対し、訴外三輪利一が被告になした訴願につき、被告が、昭和二十四年七月一日付なした、訴外姫路地区農地委員会は右宅地の買収計画を取消さねばならない旨の裁決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、
その請求原因として次の通り述べた。
原告は、昭和二十二年七月一日から同年十二月までの間に自作農創設特別措置法により、合計五反六畝九歩の農地の売渡を受けたものであるが、自作農特別措置法第十五条により、昭和二十二年十一月十五日、訴外姫路地区農地委員会に、本件土地の買収の申請をし同委員会は、同二十四年三月十九日、右申請を相当と認め、本件土地の買収計画を定めた。然るに同二十三年一月十日頃から本件土地の所有者となつた訴外三輪利一は、右買収計画に対し、被告に訴願したところ被告は、同二十四年六月一日付裁決書で、原告は、本件土地につき賃借権も使用貸借による権利も有していない、と認定して右訴願を認容し、前記買収計画を不適法として取消すべき旨の裁決をし、同裁決書は同年八月一日頃、訴外三輪利一に送達され、原告はこれを同月十五日に知つた。しかしながら、本件土地は元訴外楠田久泰の所有であつたが、原告は十数年前同訴外人の先代から本件土地を含む宅地上所在のその所有にかかる別紙図面表示の家屋を借り受け居住しているもので、本件土地は右家屋の敷地の一部に該り、原告において農業経営に利用しているものであるが、被告の右判断は、右土地上の家屋については貸借関係があつたとしても、その敷地である宅地については貸借関係がないというのであるが、家屋についても貸借関係がなかつたというのであるか明かでないが、家屋については、それが賃貸借であるか、使用貸借であるかは別論として、(神戸地方裁判所昭和二十四年(レ)第四八号事件として繋争中)貸借関係があつたことは明かであり、家屋について貸借関係があるならば、特別の事情がない限り、家は貸したが、その敷地は貸していないというのは全く理解し難い考え方といわなければならない。すなわち、被告の右判断は、事実の誤認に基くか又は法規の解釈を誤つたかの違法があるから、右裁決は不適法な行政処分として取消さるべきものである。
被告指定代理人は、主文通りの判決を求め
答弁として次の通り述べた。
原告主張事実中、訴外姫路地区農地委員会が原告主張の日本件土地にかかる買収計画を樹立し、被告が、昭和二十四年七月一日右買収計画に対する訴外三輪利一の訴願を容認し右買収計画の取消を指示した裁決をしたことおよび原告が被告の右処分を知つた日時の点はこれを認める。訴外姫路地区農地委員会は、原告が本件土地につき賃借権、使用貸借による権利、もしくは地上権のいずれをも有していないにも拘らず原告の申請に基き自作農創設特別措置法第一五条の規定により右申請を相当と認め本件土地の買収計画を樹立したものである。
よつて被告は本件土地の所有者である訴外三輪利一の訴願に基き右訴願を理由ありとして容認したのである。すなわち、原告は、昭和十年頃から訴外楠田久泰からその所有にかかる姫路市仁豊野字浦田一五二番所在の別紙図面表示の現住家屋を使用貸借に基いて借用し、本件土地は右家屋に附随する庭地であつて、家屋の使用権の存続する間はその使用を許されているもので、家屋の使用権に従属しているものであるが、昭和二十二年十一月二十日訴外尾田徳次が右家屋等の所有権を取得し、更に同月二十五日訴外三輪利一が同所有権を取得し、原告に家屋明渡の請求をしたもので、原告の右家屋に対する使用権が消滅した以上、当然右家屋に附随する本件土地の使用もその根拠となる理由を失つたものというべく、原告は前記買収計画樹立当時本件土地の不法占有者である。仮に右家屋についての貸借関係が存続し、右貸借関係に基いて原告が本件土地を使用していたとしても、原告の本件土地についての使用権限は、家屋の使用権に附随する権利として使用していたものであつて独立の権利ではない。従つて原告のため本件土地につき独立の所有権を設定することは自作農創設特別措置法第一五条の趣旨に反し、同法条第一項第二号の宅地に関する規定による権利の範囲には本件の如き附随の使用権は含まれないものと解する。更に仮に本件土地につき、原告と訴外楠田久泰との間に独立の使用貸借関係があつたとしても、訴外三輪利一が昭和二十二年十一月二十五日本件土地の所有権を取得したから原告と訴外三輪利一との間には前記使用貸借関係は承継されないし且つ、訴外三輪利一は本件土地の所有権取得直後原告に本件土地の明渡を求めたが原告がこれに応じないので、更に昭和二十三年四月六日頃内容証明郵便を以て原告にその明渡を求めているから、前記買収計画樹立当時原告は本件土地の不法占有者である。又本件土地の位置環境からして、本件土地の買収は許されないものである。(証拠省略)
三、理 由
原告が自作農創設特別措置法第一五条により、昭和二十二年十一月十五日、訴外姫路地区農地委員会に、本件土地の買収の申請をし同委員会が、同二十四年三月十九日、右申請を相当と認め、本件土地の買収計画を定め、被告が、同年七月一日、これに対する訴外三輪利一の訴願を容れ、原告主張の如き内容の裁決をしたことは当事者間に争がない。
そこで先づ、原告が本件土地につき、自作農創設特別措置法第一五条第一項第二号掲記の宅地に関する権利を有していたか否かの要件具備の有無の判断の標準となるべき時期について考えてみるに、右判断の標準となるべき時期は、同法条による買収申請の時、すなわち、本件では被告が本件土地につき前記訴外委員会に買収申請をした昭和二十二年十一月十五日現在の事実を標準として右要件具備の有無を判断すべきものと解する。なぜならば同法条の立言形式よりしてかく解するのが相当であると解せられるのみならず、もし、かく解しないならば、使用者が宅地を使用貸借による権利もしくは対抗力を具有しない賃借権に基いて使用している場合、しかも、かかる場合こそ、同法により創設された自作農の農業経営を保護し、その地位を安定させるため、むしろ同法条の存在価値が大きいと思われるのであるが、かかる場合、当該宅地所有者はその宅地の買収計画が定められるまでに、使用者に明渡を求め、又は当該宅地を他に売却する等の方法により、買収計画樹立当時において使用者を無権限占有者とし、同法条による宅地の買収を不可能ならしめ、以て同法条の企図する立法目的は宅地所有者の策動により著しくその実効性が失われる結果を招来するおそれがあるといわなければならない。
そこで次に、右の昭和二十二年十一月十五日現在において、果して原告は同法条第一項第二号掲記の宅地に関する権利を有していたか否かを判断してみるに、原告はその当時本件土地を含む宅地上所在(姫路市仁豊野浦田一五二所在)の別紙図面表示の現住家屋を、その所有者である訴外楠田久泰から借り受け使用し、この家屋の使用権に基き、且つ、この家屋使用権に伴う当然の権利としてその家屋の敷地の一部である同訴外人所有の本件土地を使用していたことは当事者間に争がない。しかして検証の結果によれば本件地上には物置、牛舍等の極めて貧弱な仮設建物があつて、農業経営に使用されてはいるがその部分は原告の居住家屋の屋敷を囲む土塀内の一角であつてその庭園の一部をなし切離して独立の屋敷とするさへ適当でないことが認められる。してみると、原告が本件土地につき有する使用権限は、前記家屋の使用権限と一体をなすもので、家屋の使用権限と独立して別個に存在する使用権限ではないと認められるところ、原告が前記家屋につき有する使用権限は、その所有者が訴外的野仲太郎に右家屋の管理ならびにその方法として右家屋を他に貸与する権限をもあわせ委ねたので、同訴外人は家屋の管理ならびにその家の中にあつた荷物等を保護するため、原告を右家屋に住まわせることとしたが、もとより賃料をとつたわけでなく、準委任契約を伴う一種の使用貸借による権利に基くものであつたことは当裁判所に職務上顕著である。(当裁判所昭和二十四年(レ)第四八号第五五号家屋明渡請求控訴事件判決参照)かかる場合原告は、同法条により右家屋の所有権を取得することができないにも拘らず、右家屋の使用権に基き、原告に使用することが許されているにすぎない本件土地につき、同法条により原告に右家屋の所有権と独立した所有権を設定することは同法条の解釈として妥当を欠くものといわねばならず、したがつて、同法条第一項第二号掲記の宅地に関する権利の中には本件の如き、家屋について使用貸借による権利に基く使用権限を有する結果、その敷地である宅地につき使用を許されているにすぎない場合の当該宅地の使用権は含まれないものと解するのが相当である。
果して然らば、訴外姫路地区農地委員会が、原告の申請に基き、自作農創設特別措置法第一五条により本件土地につき定めた前記買収計画は不適法であるといわねばならないから、被告が訴外三輪利一の右買収計画に対する訴願を認容した前記裁決は適法であつて、これが取消を求める原告の本訴請求は失当として棄却すべきものである。
よつて訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 石井末一 西川正世 北後陽三)